これも梅雨のせいね
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


GW中に そのまま夏と呼んでもいいほど
ぐいぐいと気温が上がるのは よくあることで。
瑞々しい新緑も健やかに、
正しく“初夏”という趣きじゃあないですか…
ぬぁんていう余裕の発言が出来るのは、
湿度も低くて吹く風も涼しく、
屋内や木陰では まだまだ過ごしやすいからに他ならぬ。
それが…梅雨入りを前にしても、まだ上がるか まだ暑くなるかと
留どまるところを知らない勢いで上昇を続けるようになったのは、
果たしていつからのことなやら。

 「昨日一昨日からの、
  梅雨どころじゃあない豪雨が降り出す直前までは。
  冗談抜きに そのまま真夏になるんじゃないかって勢いで、
  あちこちで真夏日記録を更新しかかっておりましたものね。」

おかげで、各地で催された“春の小運動会”が、
軒並み 熱中症で倒れた子供らの搬送騒ぎになっており。
何となく西の方が大変そうな印象があるけれど、
実は関東地域の内陸部こそ、
暑気の熱がどこへも逃げられぬ地形とそれから、
都心からやってくるヒートアイランド現象の余波も重なって、
日本一の記録を更新し倒しておいでなのであり。

  まま、そういった小難しい理屈はともかく。

西からやって来た梅雨前線と気団とが、
関東地方にもお湿りをもたらして。
こちらでもやはり、
ところによってはとんでもない豪雨になっている模様で。

 「こんな言い方をしたら、
  大変な想いをなさっている方には申し訳ありませんが、
  週末でよかったですよね。」

学校がお休みで良かったと。
思う存分お寝坊するつもりが、窓を叩く雨音で起こされたらしい、
ひなげしさんこと平八がしみじみと言い出して。

 「あらでも、ヘイさんチは学校のすぐご近所なんだから。」

雨で気温こそ下がったものの、湿気のせいでか蒸すのがかなわぬと。
スタンドバーで買い求めたカップ入りアイス・ラテ、
愛らしくすぼめたお口で ストローから飲みながら。
あれれぇ?と 玻璃玉のようなお眸々を瞬かせた七郎次だったのへ、

 「だって、
  シチさんみたいなストサラな人は いいでしょけれど。」

ふわふかな頬を膨らませた平八、
そのままカウンターに頬杖をつくと、
上目遣いになって自分の前髪を摘まんで見せる。
今時の女子高生らのように染めたのではない
生まれつきのそれとして、
光の加減によっては みかん色にも見えるほど
明るく軽やかな色合いをした、
それはそれはサラサラした髪だが、

 「実は、雨が降ると膨らんじゃうんですよね。」
 「え? ウソ。」

闊達な彼女が跳ね回る所作に合わせて素直に流れるところが、
それはさらさらな手触りをそのまま現していて。
お肌のしっとり感にくわえて何て愛くるしいことかと、
同級生や後輩たちは勿論のこと、
上級生にもシンパシーが多い、その理由にもなっているその髪が、

 「日頃からもそりゃあ手入れを怠らないのは知ってましたが…。」
 「手をかけないと張りがなくなるんですよ。」

猫っ毛の一歩手前っていうか、コシが弱いらしくって。
こういうお天気の朝なんか、
湿気を吸うと膨張しちゃって嵩が増すんですよと、
困ったことよと言いたげに肩をすくめてしまい、

 「毎朝 寝癖が撥ねまくりってことにはなりませんが、
  案外と面倒臭いんですよね。」

 「そっかぁ。」

雨が降ってるかどうかなんて
起きてからじゃないと判らないもんねと 七郎次が同情すれば。
そういうことですと、
さも重大案件であるかのように 眸を伏せて深々と頷く平八で。
勿論、半分ほどは冗談めかしてのことであり、
お顔を見合わせると、
すぐさま吹き出し合った彼女らだったものの、

 「あ、じゃあ久蔵殿も大変なんでしょか。」

彼女らのお友達に、もっと判りやすい癖っ毛の君がいる。
こちらはアーモンド風味のアイスシェイクを
ちゅくりと一口味わってから、
あ…と思い出したように平八が言い立てたが、それを聞いて

 「少しは膨らむみたいだよ?」

ふふふvvと白百合さんがやんわり微笑った。
高校生になってから、あの女学園で出会った3人だが、
ほんの時々ながら、
寝癖がついたまんまの頭でいることもあった紅ばらさんだったのへ、
あらまあと気づいたそのまま、携帯用のミストで直してやったことが、
七郎次と彼女が親しくなった切っ掛けのようなものだったらしく。

 「でも…あれほどのお家のお嬢様なんだから、
  お傍つきの人たちがお世話してくれないのかな。」

譲れない好みがあって、
自分でやんなきゃ気が済まない…とかいう順番じゃないわけだしと、
やはり不思議だと小首を傾げた平八へ、

 「自分のことは自分でって、兵庫さんが言い聞かせてて、
  周りのメイドさんたちへも それを徹底させてたらしくってね。」

 「ああそっか、お兄様だもんねぇ…。」

そういう教育や躾けは行き届いているのに。
七郎次と張り合うほど…という言い方は
この場合は順番がおかしいかもだが、
そのくらい 素晴らしい勘のよさで、
あの寡黙なお嬢様の意を酌むことも出来るというに。

 “…なんで、
  久蔵殿の気持ちの、
  肝心なところへ気が回らないのだろうか。” × 2

今更というか、言っても始まらないというか、
言葉にするだけ空しいというか。
そんなところも同感だったか、
白百合さんも ひなげしさんも、
わざわざ言葉にして持ち出しはしないまま。
そんなこんなと話題にしちゃったお友達だけ、
待ち合わせにちょっぴり遅れているけど、
姿くらいは見えないものかと、
大きな窓代わりのガラス越し、
通りのほうを首を伸ばすようにして見やったところ。
そんな彼女らの前に誰かが立っての影が差す。
二人掛けのテーブルも窓辺にあるが、
3人での待ち合わせなのでとカウンターについてたお嬢様がた、
そのお連れを待って、空けておいた席へと座りかかったその人なので、

 「あ、すみません。そこには連れが…。」

あとから来ますもので…と。
だからご遠慮願えませんかと言いかかった平八が

  え………?と 制止し、

 「ヘイさん?」

どうかしたの?という声音で訊きつつ。
そうなった原因だろう、
彼女の向こうの来訪者へ眸をやった七郎次が、

  はい?と

そこへ留めた視線を、
そのまま動かせなくなってしまったのは。

 「…?」

つややかで さらっさらのストレートヘアなのが、
硬質的で高貴な印象を強めておいでの、
シャープな面差しをした、物静かなクールビューティさん。
そんな美少女のお顔が、

 「………。」
 「もしかして、久蔵殿でしょうか。」

肩に触れるほどという長さがあったので、
いやいや、これはやはり“他人の空似”かもと、
七郎次が悪あがきをしているうちに。
でも、ウィッグなら長さは関係なくならないか?と、
先にフリーズしていた平八が
復活を遂げての、ご本人へと訊いており。
そんな二人へ、

 「…。(頷)」

遅れてすまぬとほのかに眉をしかめておいでの彼女の背後。
Q駅 駅前の待ち合わせ広場は、
未明からの雨がまだ降り続いてはいたけれど。
それで濡れそぼった結果…では 勿論ないようで。
座る動作にあわせて少し上体を傾けた所作に沿い、
すべらかな頬へさらりとすべり降りる、
何ともサラサラした髪質は。
平八を挟んで姉妹が顔を揃えたかと思われかねないほどに、
七郎次さんと似通っており。

 「…って。」
 「え?え?え? 何で、なんで?」

このお顔を見間違える私たちじゃあないけれど、
でもあの、そこへ乗っかる髪形はこれじゃあないはずと。
さっきまでの おっとり落ち着いておいでだった様子はどこへやら、
あの大の苦手な黒いGが現れたかのように
スツールから がたたっと立ち上がってしまった白百合さんと。
すぐの間近にいるから良く見とれないのかなぁと、
座ったままその身を背後へなるだけ反らすようにして遠ざかってみた、
半分泣きそうなお顔のひなげしさんだったりしたものだから。

 「???」

どしたの、何なに? 私の後ろにGが出たの?と。
キョトンとしてから…ややあって
素早く振り向いた彼女だったのへ、

 「あ。」
 「違う、久蔵殿っ。」

二人掛かりで左右の腕を捕まえた。
そこはさすがのコンビネーションと言いますか、
一瞬でも遅れていたらば、
こちらのインテリアへ
特殊警棒の雨あられとなっていただろうからで。
もしも そうと運んだならば、
どんな言い訳も利かぬまま、出入り禁止と成りかねず、

 “此処のミルクレープだけはっ。”
 “チーズオムレツが食べられなくなるのはっ。”

その筋への通報とか、その結果の停学とかじゃなくて、
そっちへの脅威から働いた反射ですかい、お二人さん。(笑)

 “久蔵殿だって、”
 “そうそう。此処のチョコパフェ、大好きなんだし。”

判った、判った。
そんな動機からだとは一番判ってなかろうご本人。
はっしと その手を取り押さえたお友達を振り返り、

 「???」

何なに、どうしたの?と、
今度は彼女の側が???だらけになっておいでなところへと。

 「こんにちは〜vv」
 「アタシ、
  まーぶるきゃらめる
  こーひーぜりー ふらぺちーのvv」
 「私は だぶるちょこのこーひーぜりー…」

彼女らに限らずのこと、女子高生は逞しい。
週末に家で手持ち無沙汰でなんか居られぬと、
この雨の中でもお出掛けしちゃったらしき、
どこかよそのお嬢さんたちのご入来とともに、
ひゅううんと吹き込んで来た湿った風に吹き混ぜられて、

 「…っ。」
 「あ…。」
 「わ…。」

まるで別人、
どっかの伝説的少女漫画に出てくるバンパネラの少年みたいな、
それはサラサラしたストレートヘアだった久蔵殿。
風に ばっさとあおられた髪が、元の位置へと戻ったその途端、
あっと言う間にいつものエアリーな癖っ毛へ戻っておいでで、

 「うあ、お帰りなさい、久蔵殿〜vv」
 「?」
 「とうとうグレたか、どうなることかと案じましたよォ。」
 「???」

パーマをあてたらならともかく、
何で髪を真っ直ぐにしたらばグレたことになるのやら。
まだちょっと混乱しておいでのお友達二人へ、

 『だから…。////////』

こういう日の髪の直し方、
シチから教わったので、もう自分で出来るよになった。
顔を洗ったおりに見た鏡で、ああそっかと気がついて、
朝ご飯を食べてから、
ドライヤー片手にちょいちょいと直していたのだが。

 『〜〜〜〜〜。///////』
 『何なに?
  兵庫さんほど真っ直ぐの髪には出来ないものかと?』

何でそこまでの詳細が判るのかと、
いつもだったら それも怪訝に思う平八だが、
今日ばかりは…
七郎次がいなくともピンと来た気がしたほどに、

 『〜〜〜。/////////////』

ただでさえ色白な紅ばらさん、
その異名に負けじとばかり
真っ赤っ赤になったのがあんまり可愛くて。
こんな大雨の中にも咲いた、
恋するヲトメの健気な愛らしさ。
リアルに目にした眼福を、しみじみ反芻したのでありました。







  ● おまけ ●


 頑張って真っ直ぐにしたんだね。
 そっか、此処までは何とか、キープ出来てたんだ。

 ………。////////

 え? そこまで車で来てたの? 見せたくて?
 うんうん、可愛かったよvv

 ………。////////

 出来れば写メ撮りたかったなぁ。
 だよねぇ、凄い可愛かったしィvv

 ……。/////////

 え? 撮ったの?
 わっわっ、欲しい欲しいvv

 〜〜〜〜。////

 何てなんて? シチさん?
 勿論 誰にも見せないよぉvv
 あ、そっか。勿論じゃないのvv

何だか台本小説みたいになっとりますが。(苦笑)
勿論の中には、当然、兵庫さんも入っていると思われて。

 「…あ、じゃあ
  私が先んじて見ちゃったのは
  記憶から消さないとマズいですかね。」

髪へと全神経を使ってたもんだから、
車にバッグを忘れておいででしたよと、
わざわざ持って来てくれた、今日は運転手だった誰か様。
そんな要らんことを言ったのも、


  ……まま、ウチではお約束だということで。(笑)






    〜Fine〜  14.06.07.


  *北斗晶さんの本名、ヒサコさんていうんですってね。
   知ったそのとき妙に笑いが止まらなんだ、
   罰当たりなおばさんです。(う〜ん)

   それはともかく。
   関東のほうでは凄まじい雨だそうですね。
   こっちも降ったところは降ったらしいのですが、
   ウチの近辺は夜半に降っただけのようでした。
   そして、そんな悪天候でも
   約束したらばお出掛けするのが高校生
   ……と、勝手に決めさせていただきましたが、
   同じ顔のどっかの次男坊の場合は、
   いいお天気でも、極力 家にいたがるんでしょうね。(笑)

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